GNSS を用いた大気センシング

 測位衛星や放送衛星が送信した信号は、大気中の様々な気象要因により減衰、遅延します。例えば、降雨で衛星放送の信号電力が減衰することはよく知られています。さらに、対流圏に含まれる水蒸気や、様々な粒子により電波の進行が遅れます。地上に配置したGNSS局において遅延時間を精度よく推定することができるため、対流圏の水蒸気量などを推定することができます。これは地上に配置した気象センサーでは知ることができない情報であり、例えば水蒸気量から積乱雲の発生を予測できれば、降雨の予測が可能になります。

機械学習を用いた降雨量予測

降雨による電波の電力減衰は、雨滴による電波の散乱と吸収が原因で生じます。特に10GHz 以上の周波数で影響が深刻となり、高い周波数ほど、また、雨滴が大きいほど顕著となります。2018年度から運用を開始した 4K,8K 衛星放送について、電波の減衰量を用いた降雨強度の重回帰分析とITUのモデルとの比較を行ったところ、ITUモデルは、減衰量に対する平均降雨強度に対してはよい近似となる一方で、瞬間的な減衰量に対しては回帰予測精度に問題があることがわかりました 。本テーマでは、減衰と降雨強度の関係に加え、気象条件や測位衛星の受信信号状態から機械学習を用いて回帰するモデルを提案し、ITUモデルや重回帰に比べて優れた回帰推定を行えることを明らかにしています。

GNSS放送暦を用いた天頂全遅延のガウス過程回帰

一般に、天頂全遅延(ZTD : Zenith total delay ) を計算するためには、GNSS 観測データに 加えて、衛星軌道を補正する精密暦やクロック補正データなどの補助データが必要となります。これらのデータは時々刻々と位置が変化する衛星に応じて絶え間なく更新されているため、ZTDの算出の前に取得しておく必要があります。しかし、継続的なデー タ通信は消費電力の増大に繋がり、特に低容量バッテリー駆動の機器では深刻な問題となります。本テーマでは、精密暦とクロック補正データを使用せず、機械学習を用いて GNSS 放送暦と地上気象データから ZTD 時系列を推定する手法を提案しました。

メンバー

<教員>

岡田実 教授(mokada@is.)

東野武史 准教授 (higa@is.)

<学生>

D4 中川豊 (nakagawa.yutaka.no3@is.) 


メールアドレスは@isの後に、naist.jpを省略しています。