深層学習を用いたミリ波システムにおけるビーム予測

深層学習を用いたミリ波無線通信システムにおける高信頼ビーム予測

第5世代及び第6世代移動通信(5G/6G)では、広帯域・大容量通信を実現するために、ミリ波/サブテラヘルツ波帯の電波が利用されています。このような高周波帯の電波は、高速・大容量通信が可能となるものの、直進性が強く、高いパスロスの影響により、特に非見通し領域(Non-Line-of-Sight : NLOS)において、信号カバレッジの制限やスペクトル効率の低下が問題となります。

近年、この問題を解決するために、大規模アンテナアレーで構成されるMassive Multiple-Input Multiple-Output(MIMO)基地局や大規模リフレクトアレーで構成されるIntelligent Reflecting Surface(IRS)と呼ばれる反射板が注目されています(図1)。これらのミリ波無線通信システムでは、ビームフォーミングが用いられており、カバレッジ内のユーザの達成可能な伝送レートが最大となるビーム方向を事前定義された離散フーリエ変換(Discrete Fourier Transform : DFT)コードブックから網羅的に探索します(図2)。しかし、Massive MIMO基地局及びIRSのようなミリ波無線通信システムは、大規模アンテナ及びリフレクトアレーで構成されるため、従来のDFTコードブックに基づく網羅的な探索では、大きな学習オーバーヘッド量を伴う頻繁なビームトレーニングが必要となります。この操作、基地局や反射板にとって、非常に大きな負荷となります。そこで、本研究室では、ミリ波無線通信システムにおいて、比較的小さな学習オーバーヘッド量で最適なビーム方向を探索するために、深層学習を用いた高信頼ビーム予測に関する研究を行っています。

図1 Massive MIMOとIRSによる電波環境改善

図2 DFTコードブックによるビームフォーミング

教師あり学習によるビーム予測

図3 深層学習を用いたビーム予測

図4 Memory-Shared Transformerの概要

深層学習を用いたビーム予測では、ビームトレーニングを最適化するために、左図に示すように、ユーザ(UE : User Equipment)からフィードバックされたチャネル状態情報(Channel State Information : CSI)を教師あり学習モデル(Deep Learning Model : DL Model)に入力し、事前定義されたDFTコードブックに基づいて、達成可能な伝送レートが最大となるビーム方向を探索します(図3)。関連研究では、従来のDeep Neaural Network(DNN)やConvolutional Neural network(CNN)を教師あり学習モデルとして用いることで、小さな学習オーバーヘッド量でビームトレーニング可能なことが報告されています。しかしながら、従来モデルの問題点として、次に述べることが考えられます。まず、Massive MIMOミリ波システムやIRS支援ミリ波システムでは、CSIは周波数情報だけでなく、空間情報も含みますが、従来の深層学習モデルでは、CSIを周波数領域でベクトル化して、深層学習モデルに入力されていました。そのため,IRS上の素子に関する空間情報の特徴量を抽出することができず、学習効率の低下が懸念されます。 また、ミリ波のような高周波帯の電波は、実環境において、ノイズやチャネル減衰の影響によるビーム予測精度の低下が懸念されるので、ノイズに対するロバスト性の高い深層学習モデルが要求されます。

そこで、本研究室では、これらの問題を解決するために、新たにメモリ共有自己回帰エンコーダと空間アテンションから構成されるMemory-Shared Transformerを提案しました(図4)。このモデルは、自己回帰エンコーダにおいて、CSIの周波数領域の特徴量を抽出し、空間アテンションにおいて、空間領域の特徴量を抽出できるので、高い学習効率が期待できます。 また、自己回帰エンコーダのゲート操作により、ノイズを除去することができるので、ノイズに対するロバスト性の改善も期待できます。本研究では、自己回帰エンコーダとして、Long Short-Term Memory(LSTM)とGated Reccurent Unit(GRU)を使用しています。これまでに、提案モデルが、Massive MIMOミリ波システムとIRS支援ミリ波システムにおいて、高いビーム予測精度を示すことを明らかにしています。また、提案モデルは、低Signal-to-Noise Ratio(SNR)において、従来モデルと比較して、高いビーム予測精度を実現しており、高信頼ビーム予測可能であることも確認しています。

メンバー

<教員>

岡田実 教授(mokada@is.)

陈娜 助教(chenna@is.)

<学生>

D3 賈昊暉(jia.haohui.jc1@is.

D1 浦上大世(urakami.taisei.uo1@is)

M2 王造時wang.zaoshi.wa6@is.


メールアドレスは@isの後に、naist.jpを省略しています。