メタサーフェス
反射板

電波環境改善可能なこれまでにないメタサーフェス反射板

第5世代及び第6世代移動通信(5G/6G)では、広帯域・大容量通信を実現するために、ミリ波/サブテラヘルツ波帯といったマイクロ波よりも高い周波数の電波が利用されています。このような高周波帯の電波は、直進性が強く、回折しにくいため、通信エリア内に所要品質を達成できないカバレッジホールが発生します。このカバレッジホールの発生を防ぐ手段として、基地局を追加設置する方法や、反射板を用いて基地局の電波をカバレッジホールの発生箇所に向けて反射させる方法があります。しかし、前者については、カバレッジを大幅に改善できるものの、通信エリア構築のコスト増加や景観の劣化が懸念されます。後者は、基地局を追加設置することなくカバレッジを改善できるものの、通常の金属反射板は、電波を鏡面反射するため、反射方向が制限される問題があります。

そこで、 本研究室では、電波の波長よりも十分小さい多数の周期素子で構成されるメタサーフェスを反射板に応用し、カバレッジホールに基地局からの電波を反射させる研究を行っています(図1)。この反射板では、反射面上の素子の寸法を調整し、隣り合う素子間の位相差(Δφ)を等間隔に設計することで、任意の方向へのビーム制御が可能となります(図2)。しかし、反射方向が素子の寸法で決まることは、反射板当たり1方向にしか電波を反射できないことになるため、ユーザ端末が移動する実環境への適応は困難です。そこで、反射面上の素子の寸法ではなく、可変容量ダイオードのキャパシタを変化させて、適応的に反射方向を制御するIntelligent Reflecting Surface(IRS)と呼ばれる反射板が、近年注目されています(図3)。 

図1 反射板による電波環境改善

図2 メタサーフェス反射板の原理

図3 IRSの構造

曲面反射板

図4 曲面反射板

近年、カバレッジホール内の受信端末に基地局からの電波を反射することで伝搬経路制御をするデバイスとしてメタサーフェス反射板が注目されています。この反射板は、反射面上に等間隔の位相変化を設けることで、通常の鏡面反射ではない異常反射を設計することが可能となります。この反射板は、基地局増設における設置条件の緩和やコスト削減、通信エリア拡大への貢献が期待されていますが、さらなる設置条件の緩和や反射可能範囲拡大に向けて、本研究室では曲面反射板の実現に取り組んでいます(図4)。従来の反射板と比べて曲面反射板は、平坦ではないビルやドーム形状の建築物の壁面に設置可能になり、適切に反射位相を設計することによって、より広い範囲で反射することが可能になります


多角形メタサーフェスを応用した周波数共用反射板

図5 可変容量ダイオード装荷型八角形構造

従来のメタサーフェス反射板では反射面上の素子の寸法を調整して、隣り合う素子間の位相差を等間隔に設計することで、任意の方向への反射電力を強めることができます。 しかし、反射方向が素子の寸法で決まるため、反射板当たり1方向にしか電波を反射できず、ユーザが移動する実環境に適応できない、また、反射板当たり1周波数帯にしか対応できず、Wi-Fiや5Gなどの電波が共用する環境に適応できない問題がありました。本研究室では、複数方向の制御と4周波共用可能な反射板を実現するために、八角形メタサーフェスに可変容量ダイオードを装荷した新たなメタサーフェス構造を提案しました(図5)。この構造では、ユニットセルは、8つの外導体(橙色の素子)と1つの内導体(水色の素子)により構成されており、外導体はそれぞれビアでコントローラの端子に接続され、内導体はビアでグランドに接続されます。また、外導体と内導体のギャップ間には、それぞれ外導体から内導体の向きへ可変容量ダイオードが装荷されています。本構造では、ダイオードの順方向と電波の偏波方向を同方向とすることで、それぞれの周波数帯で位相を独立に設計することが可能となります。さらに、逆バイアス電圧の調整により、可変容量ダイオードのキャパシタを変化させ、素子間の位相差を変化させることで、反射板当たり複数方向にビームを反射することも可能なので、IRSへの応用も期待できます。

メンバー

<教員>

岡田実 教授(mokada@is.)

東野武史 准教授(higa@is.)

陈娜 助教(chenna@is.)

<学生>

D1 浦上大世urakami.taisei.uo1@is)

M2 中村一智(nakamura.kazutomo.nj5@is)


メールアドレスは@isの後に、naist.jpを省略しています。